研究概要 |
はじめにESRスペクトル解析の基礎的検討として, ステアリン酸スピンラベル剤(5-DSA, 12-DSA)を用いて, ラット肝ミクロゾームの脂質流動性(order parameter(S))に対する胆汁酸やethanol, taurine添加の影響を検討した. その結果, 非抱合型胆汁酸ではSが増加し流動性が低下したが, 閉塞性黄疸時に増加する抱合型胆汁酸ではSが減少して流動性が増加した. 閉塞性黄疸に伴いミクロゾームの脂質流動性は低下することから, 胆汁酸の組成変化は合目的的といえる. Ethanolは流動性を増加させたが, 胆汁酸とは相加的に作用した. 胆汁酸は生体膜の浅層(5-DSA)に, ethanolは深層(12-DSA)に主として影響した. Taurine単独では流動性は不変であるが, taurine投与はtaurine抱合型胆汁酸生成を介して流動性を増加させると考えられる. 次いでラット培養肝細胞の表面膜(plasma membrane)にスピンラベル剤を取り込ませて, 流動性と共にラジカル消去速度と細胞内抗酸化物含量の測定を行った. ラジカル消去は主に細胞内抗酸化物によってなされ, 消去速度は抗酸化物含量の多少と温度に影響され流動性との関連も若干見られた. 一方, 肝細胞において活性酸素ラジカルの関与の明らかな実験系として, 酸素(カルシウム)・パラドックスの検討を行い, これらで強調されたスーパーオキサイド(O_2^-)による障害は胆汁酸や四塩化炭素による肝障害発生にも普遍的に関与することを明らかにした. さらにO_2^-の生成が高酸素状態ならびにCa^<++>, 膜障害の存在で促進されることから, 活性酸素消去剤, Ca拮抗剤, 膜安定化剤などが肝障害予防に有用であることを示した. ESRスピントラップに関しては, Fenton反応を利用した活性酸素ラジカル発生系ではDMPOやPBNでラジカルアダクトを検出し得たが, 肝細胞を用いる実験系では感度的に不充分であり, なお検討を余地が残った.
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