研究概要 |
生体に天然に存在するフッソ(19-F)は極めて微量である. しかし, そのNMR感度はプロトンに次いで高い. そこで, もし, 19Fラベル物質を生体に投与することができれば, 19-FNMRを用いて当該物質の代謝動態を観測できるであろう. 我々の目的は, 脳虚血に際して生ずる種々の代謝異常を核磁気共鳴法という新しい方法をもちいて, 生きた動物に於いて検索しようとするものである. ここに2年間において検討し得られた結果を示す. (1)脳虚血モデル動物におけるエネルギー代謝と血液脳関門の破綻に関するNMR研究:砂ネズミの両側の総頚動脈を結紮して一過性の脳虚血状態を引き起こした. 31-PNMRにてこの間の脳エネルギー代謝の破綻が示された. 23-NaNMRにてナトリウムのシグナルを観測できるが, 脳が虚血に陥ると細胞外のナトリウムは細胞内に入り込み, 23-NaNMRで観測されるナトリウムが減少した. これは, 細胞膜のNaポンプ機能を23-NaNMRで示すものである. プロトンNMRを用い脳虚血後に生ずる脳浮腫の状態を観測した. Gd-DTPAをこれに応用することにより, 血液脳関門の透過性の亢進が脳虚血後極めて早期より生じていることが示された. (2)19-FNMRによる血液脳関門の破綻の検証:上記と同じ脳虚血モデルを用い血液脳関門の機能を19-FNMRによって検索した. 脳虚血開始後2時間より360mg/kgのフルオロウラシル(5-FU)を腹腔内投与した. そして, 砂ネズミの脳内に移行する5-FUのシグナルを19-FNMRスペクトロスコピーで観測した. 脳虚血に於いては対照群に比しておよそ2-3倍のシグナル強度で5FUが検知された. つまり, 19-FNMRにより血液脳関門に於ける物質移送のセレクションと, 関門破綻による物質の透過性亢進を生きた動物で示すことができた. 以上の結果は, NMRという新しい方法論の将来的有用性を示すものであった.
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