研究概要 |
重症筋無力症の胸腺に検出されるレトロウイルス様粒子の性状決定とその病的意義の解明を研究目的として実験を行った. レトロウイルス様粒子の性状決定には, いつでも充分なウイルスを得られるウイルス産生株の作成が必須であり, ウイルス産生株作成に関して二つの実験系を開発した. 一つはヒトT細胞株への感染実験を経て得られるウイルス産生株であり, もう一つはSV40DNAトランスフォーメーション法にて作成したヒト胸腺上皮細胞株である. 両者の培養上清中には逆転写酵素活性とウイルス粒子が証明された. 培養(ことに大量培養)上, リンパ芽球系細胞の方が取扱いやすいことから, ウイルス産生T細胞株を主に用いてウイルスの性状決定を行った. 現在, ウイルス遺伝子のクローニングを終え, 塩基配列の決定にとりかかっている段階である. ウイルス核酸のsequence決定には至っていないが, HTLV family DNA探索子と本ウイルス産生細胞DNAとの間にハイブリダイゼーションが認められず, 動物レトロウイルス抗体との血清反応も認められないことから, ヒト胸腺に検出されるレトロウイルスは既知のウイルスとは異なるウイルスと思われる. 本ウイルス産生株より抽出したウイルスを抗原とするELISAにて, 重症筋無力症患者血清中にウイルス抗体が高率に検出され, 本ウイルスが重症筋無力症の病態に関与していることが示唆された. 今後, 本ウイルス遺伝子の分析を通じて, 重症筋無力症における胸腺異常の解明にとりくんでいきたいと考えている.
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