研究概要 |
糖尿病性細小血管症の発症における血液レオロジー因子の役割を究明する目的で、糖尿病入院患者17名および健常者8名について、本研究代表者らが開発した装置を用いて赤血球変形能の測定を行った。我々の方法では、個々の赤血球が一定圧力差の下で5μm,長さ10μmのポアを通過するのに要する時間の平均値を求めて赤血球変形能の指標としている。自家血漿中に浮遊した赤血球の平均ポア通過時間は、糖尿病患者群で1.75±0.44msec(mean±SD,圧力差10cmH2O,温度37℃),健常者群で1.23±0.07msec(同上)であった。また、糖尿病患者群で赤血球中の平均ポア通過時間の増加と空腹時血糖値の増加との間に有意の相関(相関係数0.74)が認められた。これまで糖尿病において赤血球変形能が傷害されるかどうか報告が分れていたが、我々の成績は糖尿病における赤血球形能の低下を意味が明確な指標を用いて確認したものである。特に、血糖値の上昇と赤血球変形能の低下との間に有意の相関があることはこれまでの報告でも明らかにされていなかった点である。赤血球変形能の低下が糖尿病における組織低酸素の一因であることが示唆されたわけであるが、更に両者の関係を定量的に検討する目的で、糖尿病患者8名および健常者8名について静脈血酸素分圧の測定を行った。肘静脈において、糖尿病患者群で35.1±8.0mmHg(mean±SD),健常者群で44.6±1.9mmHg(同上)であり、糖尿病患者群で静脈血酸素分圧が有意に低下していることが認められた。Kroghの組織円筒モデルを用いてシュミレーションを行った結果、半数の糖尿病患者で静脈血酸素分圧の低下が赤血球変形能の低下から予想される変化よりもかなり大きいことが明らかとなった。これらの患者では毛細血管密度が低下していることが疑われた。
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