研究概要 |
血管内皮細胞ヘパラン硫酸プロテオグリカンの分離精製および構造解析の研究過程で, 血管内皮細胞のグリコサミノグリカン代謝をB-D-キシロシドおよびn-酪酸で変化させることにより, 血管内皮細胞のヘパラン硫酸が量的および質的に(特にアンチトロンビンIIIとの親和性が)変化することを見出した. グリコサミノグリカン代謝過程の脱アセチル化を阻害するn-酪酸で内皮細胞を処置すると, アンチトロンビンIIIの結合は対照に比し増大し, 陰性荷電の減少が認められたが, その細胞毒性のために単離精製の目的には不適と考えられた. 一方, 内皮細胞を4メチルウンベリフェリルB-D-キシロシドで処置すると, アンチトロンビンIII最大結合能が約60%減少した. この時, 細胞表面のヘパラン硫酸は, 分子サイズには変化を認めなかったが, わずかではあるが陰性荷電の有意の減少が観察された. アンチトロンビンIIIに対して高親和性のヘパラン硫酸の比率も, キシロシド処置の内皮細胞では有意に減少していた. これらの事実は, ヘパラン硫酸分子内微小構造が変化したことを示唆している. 一方, 培養液中には大量の遊離コンドロイチン硫酸とヘパラン硫酸が著明に増加していた. キシロシドにより遊離のグリコサミノグリカン合成が刺激された結果であろうと推定される. このメディウム中に大量に放出されるヘパラン硫酸は, 内皮細胞ヘパラン硫酸の単離の目的に極めて適している可能性がある. 現在, 本物質の分子的特性を検討中であるが, さらに規模を拡大して本物質の精製を行なう予定である. 以上, 本研究の過程で, 現在までに, 内皮細胞のプロテオヘパラン硫酸の代謝は, 種々の物質により修飾され得ること, それが内皮と凝固関連因子の相互反応を変化させて内皮の抗凝固性に影響を与えること, およびプロテオグリカン代謝修飾因子により培養液中に増加したヘパラン硫酸は, 本物質の単離に極めて有用な材料を提供しうることを見出した.
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