研究概要 |
臨床上みられる高血圧性心不全の病態は複雑で単に圧負荷による肥大とその破綻の結果であるとは言い難い. 体液性因子や神経性因子など種々の要因の関与が推測されるにとどまり, 発症機序との関連についての明らかな知見は見あたらない. 今回は自然発症高血圧ラット(SHR)を用いて降圧剤による肥大の退縮を検討し, 次に高血圧肥大心, 退縮心および正常心のポンプ機能と予備力を測定し高血圧性心不全の発症機序を検討した. 1)α遮断剤prazosin(PR), Ca-拮抗剤diltiazem(DT), アンジオテンシン変換酵素阻害剤captopril(cP)を経口投与しSHRの血圧と心重量を検討した. PR, DT, CPのいずれにてもSHRで有意の降圧を認めたが, 心重量についてはPR, DTで有意の変化は認められず, CPにおいてのみ心重量の低下が認められ退縮が確認された. 2)そこでcaptopril(CP)を3週間, SHRとWKYに経口投与し対照群にはvehicleを投与した. SHRでは降圧と心重量の低下が認められたがWKYでは有意の変化はなかった. 次にエーテル麻酔下において開胸し, 大動脈に装着した電磁流量計で心拍出量を, 経左房的に挿入したカニューレで左室拡張末期圧(EDP)を測定しながら40me/kg分の速さで全血を用い急速容量負荷を行ない一回心拍出量とEDPから心ポンプ機能の重要な指標である心機能曲線を求め比較検討した. SHRとWKYの治療群・対照群のそれぞれの心機能曲線はほぼ一致し有意差を認めなかった. しかし降圧した退縮心(SHR)の後負荷(血圧)を対照群に一致させると, その心機能曲線は有意に右下方に移動しポンプ機能の低下を認めた. 以上の結果より高血圧心の肥大と退縮は単に圧負荷のみならず他の要因の関与の大きいことが明らかとなった. また高血圧肥大心, 退縮心および正常心のポンプ機能は差がないが容量負荷, 圧負荷に対する予備力は退縮心で低下しており, 心不全に移行しやすい状態にあることが示唆された.
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