研究概要 |
バルプロ酸(以下VPAと略す)は、1分子の酢酸に2個のプロピオニル基が結合した分枝鎖脂肪酸のひとつで、近年、有効な抗痙攣剤として利用されている。しかしながら一方、重篤な副作用としてライ症候群に類似した肝性脳症,高アンモニア血症,高グリシン血症等を引き起こすことが知られている。今回、VPA投与によるin vitroでの肝ミトコンドリアの形態及び機能的影響について調べた。Wister系ラットにVPA66.4mg/100g体重1日皮下に連日投与すると、肝ミトコンドリア蛋白量が増加し、5日間でplateauに達し対照の約1.5倍に増加した。肝湿重量,肝蛋白量及びDNA量には対照と有意差を認めなかった。この肝を、電子顕微鏡で観察すると、巨大化したミトコンドリアが認められた。ミトコンドリア画分の標識酵素活性を対照と比較すると、グルタミン酸脱水素酵素,【NAD^+】特異的イソクエン酸脱水素酵素のマトリックス酵素の比活性は有意の変化を認めなかったが、外膜酵素モノアミンオキシダーゼ(65%),内膜酵素コハク酸脱水素酵素(79%)及びチトクロームオキシダーゼ(70%)の膜結合酵素活性が有意に低下していた。更に、チトクローム【aa_3】の含量が対照の71%と減少し、呼吸はstate3で対照の83%、state4で対照の72%と障害され、ミトコンドリア内に於ける蛋白合成能も対照の平均75%と有意に低下していた。以上のことは、VPAの投与により、ラット肝ミトコンドリアが形態的及び機能的に障害されることを示している。しかし、服用者には殆んど障害を認めないことから、服用者に特に問題がある場合のみ、これらの変化が重篤な副作用発症引き金のひとつとなり得るものと思われる。
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