研究概要 |
チログロブリン(Tg)は、分子量約66万の大きな糖蛋白であり、その分子表面には多数の抗原決定基が表現されている。しかし、このTgの分子構造,およびTgに対する自己免疫応答にて認識される抗原決定基の部位としてその構造は、判明していない。我々は、今までに、Tgに対する自己抗体の認識する抗原決定基は、Tgの極めて限局された部位に存在し、異なった種属間に共通に存在していること,そしてこの決定基の構造はTgの高次構造よりなることを明らかにしてきた。今回は、橋本病患者T細胞の認識するTg抗原決定基を、Tgに対するT細胞の分裂能を指標として解析した。これより以下の点が明らかとなった。1.T細胞は、種属の異なる動物由来のTgにも高応答性を示すことから、種属間に共通に存在するTg抗原決定基を認識している。2.自己抗体も種属間に共通のTg抗原決定基を認識している。これより同一患者における抗体とT細胞の異種動物Tgへの特異性を比較したところ、抗体とT細胞ではその特異性が異なっていた。すなわち、T細胞とB細胞はTgの異なった部位を認識していると考えられた。3.19sTgをStaphylococcus aureus V8プロテアーゼで処理後、高速液体クロマトグラフィにてTgフラグメントの分画を行なった。その結果、390K,230K,100K,42.5K,25K,14Kの6つのTgフラグメント分画を得た。T細胞は、これらすべての分画に応答性を示した。4.Tgをジチオスレイトール(DTT)にて処理し、Tgのジスルフィド結合を切断することによりTg高次構造を変化させた。このDTT処理Tgに自己抗体は、ほとんど結合できないが、T細胞は自然Tgに対するのと同様にDTT処理Tgに高応答性を示した。以上より、橋本病患者T細胞は種属間に共通に存在する抗原決定基を認識し、自己抗体がTgの高次構造を選択的に認識しているのに対し、T細胞は主にTgの一次構造よりなる抗原決定基に対して応答していると考えられた。
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