研究概要 |
ライ症候群などにみられる尿素回路不全による高アンモニア血症の原因として, 尿素回路に供給される内因性オルニチンの減少を検討した報告はこれまでなかった. そこで今回は小腸上皮ミトコンドリアに存在する, グルタミン酸からオルニチン, アルギニン, プロリンを合成する経路の律速酵素であるピロリンー5-カルボン酸(P5C)合成酵素活性に対する種々の要因を検討した. そのためにまず高感度, 高特異的な方法を開発した. 酵素反応により〔^<14>C〕glutamateから生成した〔^<14>C〕P5Cを10cmの陰イオン交換樹脂カラムで分離し, NaBH_4で還元後5cmの同カラムで〔^<14>C〕prolineを選択採取してdpmを計測する事により30pmolの活性が正確に検出出来た. 本法によりPSC溶出位置直前に未知物質と思われる^<14>Cのピークが認められ, P5C合成酵素同様にATP, MgCl_2, NADPHに対する依存性を示した. この物質の同定を現在急いでいる. ラット全身30組織の活性分布を検討したところ, P5C合成酵素は上部小腸に集中して存在し, 膵臓胸腺, リンパ腺などにも少量存在したが, 肝臓, 腎臓, 骨格筋などにはなかった. 臓器あたりの活性は雄が高かったが, 比活性に雌雄差は認められない. 3年齢ラットでは若年ラットに比べて活性低下傾向を認めた. STZ糖尿病ラットでは著しい活性低下を認めた. ライ症候群関連の薬剤の影響は, aopirin, aminopyrine, caprylic acidなどで20%前後の阻害が認められた. さらに人体摘出小腸片を用いて, 人体における本活性の存在を証明し, 各種要求性も確認した. 最後にオルニチン合成に必須のアセチルグルタミン酸合成酵素活性の測定法を開発し, ラットの26組織を検索した結果新たに腎臓, 膵臓, 肺, 精巣, 褐色脂肪に高い活性を認めた. 以上よりP5C合成酵素活性の低下とライ症候群の関連性は強くはないと推察され, むしろ老齢者におけるプロリン, アルギニン合成の低下を素因づける様に思われる.
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