研究概要 |
心臓は全身の各臓器へ血液を送り出すポンプとして絶え間ない収縮を繰り返し, これに要する巨大なエネルギーを冠動脈からの血流によって供給された代謝基質物質の代謝でまかなっている. 本研究では, 心筋局所におけるエネルギー代謝の状態を画像として描出することを目的として, 新しい標識化合物の開発に関する基礎的検討とポジトロンCTを用いた虚血性心疾患における臨床的研究を行った. ポジトロンCTを用いた心筋血流と糖代謝の比較検討により, 虚血心筋における糖代謝の亢進が明らかにされた. この糖代謝亢進は, 安静時虚血部のみならず比較的新しい梗塞部や運動負荷によって誘発される虚血部でも認められた. 梗塞部心筋では, 比較的血流の維持されている小さな梗塞部や梗塞周辺部に糖代謝の亢進を認めた. 一方, 運動負荷によって誘発された虚血部でも, 梗塞発症後に狭容冠動脈の再開通を生じて血流の回復が見られたのではないかと考えられる部位がその大部分であった. すなわち, 虚血心筋における糖代謝の亢進は, 代謝異常をともなう障害心筋の存在を示すものと考えられる. ポジトロンCTによる代謝イメージングの成果を日常の臨床核医学検査に還元すべく, ヨード標識グルコース誘導体の開発を行った. その結果合成されたヨードベンジルグルコース(IBG)は, グルコースと同様の機構によって細胞内に摂取されるが, ヘキソキナーゼによるリン酸化反応は受けないことが明らかとなった. 以上の検討から, ポジトロンCTによる心筋代謝イメージングは臨床的に各種心疾患における心筋エネルギー代謝の評価に有用である. またヨード標識代謝物質の開発により, 心筋代謝イメージングの日常臨床への応用も期待される.
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