研究概要 |
61年度の研究実施計画は(1)神経系培養細胞におけるカテコールアミン, セロトニン合成系に及ぼす抗うつ薬の影響(2)C_6グリオーマ細胞のβ受容体に対する抗うつ薬の作用について検討するものであった. このうちカテコールアミンの合成系に対する影響は予備的実験において抗うつ薬の直接的作用が認められないと考えられたため, 又セロトニンに関してはNG108-15細胞の合成能が極めて低く検討できなかったため, 計画を変更しシナプトゾーム標品をもちいて慢性抗うつ薬投与時のセロトニン再取り込み阻害能およびパロキセチン結合能の変化を検討することによりpresyrapseでの変化をみることとした. この結果, 慢性投与によってもセロトニン再とり込み機構, パロキセチン結合は変化を受けないことが明かとなった. (2)に関しては抗うつ薬のβ受容体に対する直接作用の可能性が明かとなったので62年度の計画の中心課題とした. 62年度の計画は(1)C_6グリオーマ細胞を用いたβ受容体に対する抗うつ薬の影響(2)抗うつ薬のレセプター以後の過程に及ぼす影響であった. この研究の結果, 新たな知見としてデシプラミン, ミアンセリンにはβ受容体には影響を及ぼさず, 直接セカンド・メッセンジャーであるcyclic AMPのβアゴニスト刺激による産生を抑制する作用のあることが明らかとなった. 抗うつ薬が細胞内に取り込まれ細胞外濃度の10〜100倍の濃度に至るとの報告が最近なされており, これを考え併せると我々の知見の持つ意味は大きいと考える. この研究の成果は抗うつ薬の作用機序を新たな視点から見直すものであり, うつ病の成因・病態の解明に寄与するものと考える. 更に(1)多くの抗うつ薬について検討し抗うつ薬全般に共通する作用であることの確認(2)レセプター以後のどの段階(G protein,catalytic unitなど)に作用しているかなどの課題が今後の研究計画として考えられるところである.
|