研究概要 |
1.〔脳循環動態に関して〕 (1)痴呆例では脳の末梢循環抵抗が増し, 総頸動脈の血流量が減少していたが, 血流量は正常老人(NC)>局在型血管性痴呆(CVD-L)>びまん型血管性痴呆(CVD-D)≒老年痴呆(SD)であった. (2)血管の広がり難さを現わす容積弾性率(Ve)の値は, CVD-D>CVD-L>SD≒NC, であった. このことはVeがCVD群(特にCVD-D群)とSD群の鑑別のための有用な指標であることを示唆する. (3)健常者では左右の頸動脈血流量の差は通常1ml/sec以下であるが, 痴呆例ではこれ以上の差のある例が多く, 特にSD群に著しい(CVD-L(36.9%)<CVD-D(43.4%)<SD(76.0%)). (4)CVD-L群において, 血流量の左右差と粗大病変の局在・夜間せん妄出現との相関はなかったが, dysphoric moodの出現率は, 左側低下群(dysphoric mood出現率;81.8%)が, 右側低下群のそれ(16%)を大きく上回っていた. 2.〔脳波周波数(パワー比)分析に関して〕 CVD-D群とSD群との比較を行なった. 一般にCVD-D群の方が痴呆の程度が軽いが, 痴呆の重症度による影響を除くために重症〜極めて重症のCVD-D群の症例を集め, 両群の臨床的重症度を一致させて重症度別に各帯域のパワー比を較べることができた. (1)比較的軽度の段階ではθ帯域の増加とfast-α帯域の減少が見られる. (2)痴呆の進行につれてこれとは質の違った変化が出現する. すなわち, δ帯域の増加とslow-α帯域の減少である. この変化はCVD-D群に較べて痴呆のより軽度な段階からSD群の方に早期に出現する. (3)さらに痴呆が重症化し末期状態になると, CVD-D群でも同じ変化が出現してSD群との差が不明瞭になる.
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