研究概要 |
ヒト肝癌細胞糖輸送担体蛋白のアミノ酸配列のN末端に近い15個のアミノ酸VHRYGESILPTTLTTより成るショートペプチド(ペプチドNと呼ぶ),ほぼ中央部の12個のアミノ酸LINRNEENRAKSより成るペプチド(ペプチドM),およびC末端に近い14個のアミノ酸GFRQGGASQSDKTPより成るペプチドCを化学的に合成した。これをKeyhole limpet hemocyaninに結合させた後、家兎に免疫したところ、ELISAにて各々のショートペプチドに対する抗体の産生が認められた。そこでショートペプチドをアガロースに結合させ、このアフィニティカラムを用いて抗血清より抗体を精製した(各々抗体N,抗体M,抗体Cとする)。ヒト赤血球の糖輸送担体をトリチウム標識サイトカラシンBにてフォトアフィニティ標識した後、トライトンX-100にて可溶化し、抗体と孵置後プロティンA-セファロースを用いて免疫沈降を行ったところ、抗体MおよびCは10μg/mlの濃度でヒト赤血球糖輸送担体蛋白を80%以上免疫沈降した。抗体Nも免疫沈降したが、その力価は抗体MおよびCに比較して弱かった。又、抗体MおよびCはニトロセルロース紙にブロットしたヒト赤血球糖輸送担体蛋白を認識した。興味あることに、抗体MおよびCは、ラット脳の糖輸送担体蛋白を免疫沈降およびブロッティング法にて認識したのに対し、インスリンに反応するラット脂肪細胞の糖輸送担体はいずれの方法にても認識しなかった。これは脂肪細胞の糖輸送担体蛋白がヒト赤血球やラット脳の糖輸送担体蛋白とは免疫学的に必ずしも類似していない可能性を示唆している。また抗体Mは250μg/mlの濃度でヒト赤血球糖輸送担体に対するサイトカラシンBによる標識を強く抑制したのに対し、抗体Cではその抑制は軽度にとどまり、グルコースと競合するサイトカラシンBの結合部位がヒト赤血球糖輸送担体のほぼ中央部を含む可能性を示唆した。
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