研究概要 |
脳におけるインスリン様成長因子(IGF)受容体の物理化学的性状について, 末梢組織である胎盤における受容体のそれと対比し検討を加えた. ^<125>I-IGF-IあるいはIGF-IIと受容体を結合させた後, 両側架橋試薬で共有結合を作製しIGF受容体複合物を電気泳動し, オートラジオグラフィーにて受容体の構造を分析した. 標識リガンドとしてIGF-Iを用いた場合, 脳では115K, 200K, 胎盤では130K, 220Kの位置に放射活性のバンドが認められた. TGF-IIを用いると, 脳では115K, 220K, 胎盤では130K, 220Kのバンドが出現した. タイプI・IGF受容体(I-GF-I受容体)に対する単クローン性抗体により, IGF-Iを用いた場合のバンドは全て免疫沈降されたが, IGF-IIの場合に出現した220Kのバンドは免疫沈降されなかった. 従って脳にはタイプIとIIの二つのIGF受容体が存在すること, また脳のタイプI受容体の分子量(115K)は胎盤のそれ(130K)に比し, 小さいことが示された. 次にタイプI受容体の分子量に対する酵素処理の影響を見た. IGF-I・受容体複合物をノイラミニダーゼで処理すると, 胎盤の場合, 受容体の分子量が減少したが, 脳では変化しなかった. 更にIGF-I・受容体複合物のレクチンセファロースカラムに対する吸着性について検討した. 種々のレクチンカラムに胎盤の受容体は, 脳に比し, はるかに強い吸着性を示した. 以上の結果から, 脳のタイプI・IGF受容体の分子量は胎盤に比し小さいこと, またその分子量の差異は主として糖鎖部分の違いによる可能性があることが示された. IGF受容体の組織間異質性の生物学的意義は現在のところ不明であるが, 脳に存在するIGF(主としてIGF-II)が脳において末梢組織とは異なる特異な生理活性を有している可能性があり, 興味深い知見と思われた.
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