研究概要 |
1.自己免疫性甲状腺疾患患者にみとめられる甲状腺刺激抗体とブロッキング抗体の相互作用を, ブタ甲状腺培養細胞のcAMP増加反応を指標として検討した. その結果, 甲状腺刺激抗体の作用はいずれも, ブロッキング抗体により阻害されることが判明した. 刺激活性の弱いものほど高度に阻害され, また, TSHの結合を阻害する作用(TBII)の検出されない刺激抗体はTBII強陽性の刺激抗体よりも強くその作用が阻害された. ブロッキング抗体による刺激抗体の作用阻害活性は, そのTBII活性とよく平行していた. 以上の知見より, 刺激抗体とブロッキング抗体は極めて近接した, もしくは同じ抗原部位を認識していることが示唆された. 2.TSH受容体抗体の検出率を上げるため高感度な甲状腺刺激抗体のバイオアッセイを開発した. ラットの培養甲状腺細胞, FRTL-5のcyclicAMP産生を指標とするこのアッセイにより甲状腺機能亢進症を呈するバセドウ病患者のみならず, 眼症状のみのeuthyroid Graves症患者でも全例にこの抗体が存在することが明らかにされた. 3.甲状腺刺激抗体の存在にもかかわらず甲状腺機能亢進に至らない患者が存在するのは何故か? FRTL-5細胞の125I摂取を指標として甲状腺刺激活性をみると, これらの患者では亢進群に比べ活性が低く, TBIIが低値で甲状腺腫が小であった. 従って, cAMP以後の刺激伝達系への抑制因子の存在や, 甲状腺細胞の増殖促進因子が少ない可能性が考えられた. TBIIに含まれる種々の受容体抗体の中に増殖促進抗体の存在することが示唆され, バセドウ病の発症機構を知る上で今後さらにその解析が必要と考えられた.
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