研究概要 |
癌遺伝子産物pp60^<c-src>に対する単クローン抗体を用いた間接蛍光抗体法によるフローサイトメトリーを行ない, ヒト白血病・リンパ腫由来株化細胞K562, HL60, U937及びNamalvaの各細胞中に細胞性pp60^<c-src>の発現量が有意に増加していることが明らかになったが, その発現量と細胞の由来した疾患の種類との明確な相関は見出せなかった. 分化能を有するK562, HL60及びU937の細胞をTRA等の薬剤で分化誘導を行なうと, 走査電子顕微鏡下に基質への付着性の増大, 偽足様構造及び著明なruffleの出現が認められ, 単球・マクロファージ系に分化誘導を行なうと, 非特異的エステラーゼ染色性の増大, 腸球菌貧食能の増強が観察された. HL60細胞では単球マクロファージ系, 顆粒球系のいずれの方向に分化誘導しても, 最小発育阻止濃度以下の抗生物質存在下での緑膿菌の貧食殺菌能が著しく増大することが明きらかになった. これらの結果は, K562, HL60及びU937の各細胞がTPA等の薬剤により形態学的, 細胞化学的さらに貧食細胞としての機能的にも明確に分化誘導されることを示している. そこで, K562細胞のTPAによる分化誘導前後のpp60^<c-src>の発現量の変化を解析した. TPA処理の時間経過と共にpp60^<c-src>の発現量が減少し, 120時間後にはほとんど検出されなくなっていた. TPA処理により分化誘導を行なうと, 細胞周期のS期にある細胞の割合は減少し, G1期及びG2+M期の細胞の割合は相対的に増加した. G1期及びG2+M期にある分化誘導前後のK562細胞を分画, 分取し, 細胞周期の同一phaseにある細胞の, 分化誘導に伴うpp60^<c-src>の発現量を比較検討した. その結果, G1期の細胞では, 分化誘導に伴いpp60^<c-src>の発現量が減少していたが, G2+M期の細胞ではそのような発現量の差異は認められなかった. 以上の結果より, pp60^<c-src>の発現はこれらの細胞の分化と増殖に密接に関連していること, 殊にK562細胞の細胞周期のG1期において重要な働きを演じているものと推察される.
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