研究概要 |
癌遺伝子の細胞増殖に関与する種々の蛋白をコードし, 癌遺伝子の変異或いはその遺伝情報の発現異常が細胞の無制限な増殖をもたらすことが明らかとなっている. 造血器腫瘍に認める染色体の転座は腫瘍の細胞形態, 組織像などと相関を有し, 転座を起こす染色体切断点の近傍に癌遺伝子が局在することが多いことが判明して来た. 白血病の分類は, 現在は細胞形態と細胞化学に基くFAB分類を基本として, これに細胞表面マーカーを組み合わせる分類法が用いられている. これらの分類は癌化に伴う間接的変化に基いており, 白血病の直接原因と考えられている癌遺伝子情報の発現異常に基いた分類法ではない. そこで我々は, 非放射性histo-in situ-hybridization法と癌遺伝子蛋白に対する抗体を用い, 癌遺伝子情報異常による白血病分類を試みた. 同時に, Tリンパ球の増殖分化成熟の場となっている胸腺の腫瘍に関しても, 癌遺伝子の情報発現異常, 癌遺伝子産物の増加を検討した. 〔結論〕(1)今回の研究から遺伝子プローブによる非放射性histo-in situ-hybridizationは遺伝子による白血病細胞の診断と分類に有用であることが示された. (2)c-myc遺伝子産物が前骨髄性白血病と骨髄単球性白血病に, c-k-ras遺伝子産物が, 前骨髄性白血病細胞に多量に発現している例が多いことが判明した. (3)前骨髄性白血病の一例では, c-myc, c-k-ras双方の遺伝子産物が著増しており, c-mycとc-k-ras遺伝子の発癌における協同作用が示唆された. (4)治療抵抗性の前骨髄性白血病の症例では化学療法を行うと, 癌遺伝子産物を多量に発現している白血病細胞が残る傾向がみられた. 治療に良好に反応した症例では, 速やかに消失した. (5)胸腺腫ではc-myc遺伝子情報遺伝子産物の異常発現が認められたが, 組織型との関連は認めなかった. これに対し, c-k-ras遺伝子産物は上皮型にのみ認められた. 以上のことを症例を増やし検討を続けている.
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