研究概要 |
近年の患者管理技術や外科治療の進歩発展に伴い, 重症外傷患者や高齢者などのいわゆるhigh risk例に対しても, 外科手術を含む積極的な治療が行なわれるようになった. これに伴い, 過大侵襲や重症感染症の発症を契機とする多臓器不善(MOF)が重篤な合併症として注目されてきている. このMOFの発症における, 組織損傷治療機転の重要因子である低フィブロネクチン血症の意義を, 活性酸素との関連において明らかにすることを検討した. 1.臨床例における血中フィブロネクチンの動態に関して 外科治療を目的として当科に入院してきた患者の血中フィブロネクチンを手術前, 中, 後と経時的に測定した. その結果, 肝硬変合併肝癌で207+26, 肝機能正常消化器疾患群で407+99血液生化学検査値に軽度の異常を認める非肝臓疾患群で313+83μg/mであり, 肝機能障害例で最も低値を示した. 経時的な観察では, 順調な経過を示す例では術後1〜3日目に最低値を示し, 術後1週目で術前値に回復した. 一方, 術後感染症を合併した例や課題侵襲と考えられた例では低フィブロネクチン血症を示し, かつその回復は遷延し, MOF例でとくに著明であった. 2.動物実験における基礎的検討関して 消化器外科領域においては, MOFの初発臓器あるいは関連臓器として最も重要な肝臓の機能障害を中心に検討した. 実験モデルとしては, 薬物性, 阻血性あるいは閉塞性黄疸肝障害とした. 薬物性(ガラクトサミン肝不全)肝障害では肝のATPレベルの低下が, 阻血性肝障害では侵襲に再潅流時の活性酸素による障害が, 閉塞性黄疸時には交換神経系の反応特性の異常が結果的に肝のエネルギー代謝異常をもたらすことなどが判明した.
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