研究概要 |
エストロゲンの血栓形成促進作用の機序を解明するため, エストロゲンが血流や血管壁, 凝固線溶系に与える影響を調べた. 兎の耳に微少循環観察用のチェンバーを装着し, 顕微鏡観察下に耳介動脈より結合型エストロゲンを投与し, 血流の変化, 各種血球の動きを観察し記録した. また人の血液を用いてエストロゲンを加えた時のADP, コラーゲンによる血小板凝集能の変化やプロトロンビン時間, 部分トロンボプラスチン時間, AT-3, フィブリノーゲン, プラスミノーゲン, 補体C6の変化について調べた. エストロゲンを耳介動脈より投与するとその直後より血流の緩徐化(slowing)が見られ, 白血球の血管壁にそった回転しながらの移動(rolling)が目立つようになった. これらの白血球が血管壁にくっつく現象(sticking)も見られ, このくっついた白血球にさらに白血球が重なり合い血流を阻害する現象もみられた. また血管の径は投与直後に少し拡張した. これらの血流を阻害する現象が互いに影響し合うためか, 血流の途絶える(stasis)血管も見られたが, 時間の経過とともに再疎流するのが普通であった. これらの変化は静脈のほうによく見られた. また, 多量に投与したとき飛翔血栓がみられることもあった. しかし, 投与量を増やしてもこれらの現象が平行して増えると言うことはなかった. 白血球のstickingやstasisを, 24時間後, 48時間後観察した兎もあったが, stasisが更に広がるというような例はなく, 血流は再開していた. stickingは消失しているのもあれば, 残っているのもあった. 血小板凝集能や凝固線溶系については一定の傾向は見られなかった. 補体のC6は軽度減少した. 今回の実験からは上記のような現象が生じた原因としてはエストロゲンによる血管内膜の何等かの変化が関与しているのではないかと思われた.
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