研究概要 |
我が国の肝癌は肝硬変に合併することが多い. 肝硬変例においては肝機能低下はもとより凝血異常や自己防御能の低下などがあり, それらが肝癌手術後の合併症の発症に大きな役割を演じている. 我々は肝の代謝能(ミクロゾーム機能)と凝血能そして細網内皮系(RES)機能を肝の予備能として捉え, それらを総合した耐術評価の確立を目指し本研究をおこなった. 抗てんかん薬のトリメタジオン(TMO)が肝ミクロゾームだけで代謝され, 代謝物は唯一ジメタジオン(DMO)である事を確認の上, TMOを用いた肝ミクロゾーム機能検査法について検討した. 本測定法により, 1.肝のfunctional capacityの評価, 2.肝のcritical levelの評価, 3.加齢による肝ミクロゾーム機能の評価, そして4.肝切除時の残存肝機能の予測などが可能であった. RES機能は^<99m>Tc-フチン酸を用いた薬物動力学的解析により測定した. 肝硬変例のRES機能は全体として低下していたが, 肝のRES機能の低下と脾のRES機能の亢進が認められた. 即ちRESの評価は, 全身のRES機能総量で行う必要があると思われた. 肝硬変例においては脾腫内での血流の鬱滞による凝固因子の活性化やRES機能の低下により凝固亢進状態にある事が凝血学的検討で明らかとなった. 肝のミクロゾーム機能とミトコンドリア機能や細網内皮系(RES)機能とを検討した. それらの機能は相互に関連を持っており, 肝予備能の低下が肝癌切除後の重篤な合併症の発症につながる事が示唆された. 肝のミクロゾーム機能は肝癌の耐術評価に極めて有用であるが, 単に耐術評価のみでなく肝癌に対しより根治性を高めた治療を行うには, さらにRES機能や凝血能などの総合的検討が必要と思われる. 今後は肝の代謝能や凝血能そしてRES機能等の活性化や安定化をはかり, 全体として肝予備能を賦活する事により, 肝癌に対しより安全で有効な治療法が可能と思われる.
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