研究概要 |
犬を用いて従来長期生存が困難とされてきた拡大肝切除の可能性を検討することを目的として, (1)正常犬の84%肝切除後残存肝機能障害の中心的役割を担う脂質過酸化反応をCoenzymeQ10(CoQ10)あるいはTestosterone(Te)を用いて抑制し, (2)正常肝84%切除およびDimethy-Nitrosdmine投与にて作成したDMNA硬変肝78%切除の拡大肝切除に際して, 予めその領域の門脈枝を結紮して二期的に当該領域を切除し, その病態や生存率を検討した. 1.拡大肝切除に及ぼすCoQ10あるいはTe投与の効果:1)生存率:正常肝84%切除の拡大肝切除にCoQ10あるいはTe投与すると4週以上の生存率は2倍以上に向上し, 肝不全の発生も著しく低率となった. 2)残存肝機能障害:CoQ10やTe投与群では拡大肝切除後も正常肝70%切除群と同様に残存肝機能障害は軽微で4週後には正常に復したが, CoQ10やTe非投与の拡大肝切除群では術後早期から高度の肝障害を示しかつ4週以上生存例でさえもその回復は著しく遷移し肝再生は不良であった. 3)過酸化脂質:肝組織並びに血漿中過酸化脂質はCoQ10やTe非投与の拡大肝切除で高値を示しこれが肝機能異常と有意に相関したが, CoQ10やTe投与群ではこれらの変化は軽度で特にTe投与では術後早期の残存肝脂肪浸潤は軽減し, NADPH依存型過酸化脂質生成が抑制された. 2.門脈枝結紮後二期的拡大肝切除:正常肝84%領域の門脈枝結紮後4週目にこの領域を切除すると4週以上生存率は66.7%と一期的切除の22.2%の成績を著しく改善し, またDMNA硬変肝70%切除でも一期的切除では1週以上生存例はなかったが, 二期的切除で4週以上生存率40%を示した. 残存肝は門脈枝結紮後良好な再生を示し, 二期的切除後の肝障害も僅かで肝血流良好だった. 以上, 肝切除の予後は残存肝機能に依存しておりCoQ10やTeによる脂質過酸化反応の抑制や門脈枝結紮による残存予定領域の肝再生をはかることは, 肝切除限界の拡大を可能とした.
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