研究概要 |
ブタ全肝移植後の血清脂質構成脂肪酸の変動について検討した. 中性脂肪, リン脂質濃度はそれぞれ肝移植後9,18時間を最低値として減少し4日にかけ回復した. これらの回復には移植肝における脂肪合成, アポ蛋白合成および血中への放出が必要で回復期の血中濃度は移植肝機能の指標として有効と思われた. リン脂質, コレステロール・エステルの構成脂肪酸分析によるとリン脂質分画では3週間の全経過中総量は持続的に減少し構成比上でも生合成不能なアラキドン酸, ドコサヘキサエノイン酸は持続的に減少し合成可能な脂肪酸の中でもステアリン酸は減少した. これに代わってパルミチン酸, オレイン酸は増加した. これらの変化の約50%は肝移植後24時間内に起こり肝移植直後の代謝変動の大きさを示した. コレステロール・エステル分画でも同様の変動が認められたがその程度はリン脂質より著しく, リノール酸とオレイン酸濃度は1週間以降逆転した. 移植後の必須脂肪酸欠乏の指標としてはコレステロール・エステル分画のω9/ω6比が鋭敏で有効と思われた. また, 無肝期直後から移植後6時間にわたりリノール酸構成比の上昇が認められ無肝期の変化として特徴的であった. 肝移植後1週間以上生存例では6日以内死亡例と比較して(1)無肝期のリン脂質のパルミチン酸, コレステロール・エステルのリノール酸濃度(2)肝血流再開後3〜18時間の減少期におけるリン脂質のω9系脂肪酸構成比(3)肝移植後24時間〜4日間の移植肝による脂質代謝回復期におけるリン脂質のω3系脂肪酸の構成比に有意差を認めた. 無肝期および減少期における差は肝移植の成否が移植肝の機能だけでなくレシピエントの術前の栄養状態(特に必須脂肪酸欠乏状態)と密接に関係していることを示唆し, 回復期における移植肝によるω3系脂肪酸の血清脂質への動員は移植肝の機能を表わすと同時に移植後の栄養管理の重要性を示唆した.
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