研究概要 |
CEAと粘液抗原に対する特異抗体を用い, 免疫組織学的検索によって胎児形質を有する大腸癌39例と腺腫20例を集めた. 大腸癌10例からは, メッセンジャーRNAを抽出し, ノザンブロット法を行なった. その結果, 10例中5例にHa-ras, 4例にC-mycの転写亢進がおこっていることが確認された. V-Ha-rac(880bp)とV-myc(990bp)をスルホン化し, histo-in situ hybridizationを行なったところ, ノザンブロット法で転写活性亢進のみられた例では, 癌細胞の細胞質にそれぞれのmRNAの存在が確認され, 少数例をのぞいて, ノザン法とin situ hibridization法の結果は良い一致をしめすことが分かった. そこで, 胎児型形質を有する39例の大腸癌全例に対し, スルホン化V-Ha-rasおよびV-mycプローブを用いたhisto-in situ hibridizationを施行したところ, 11例(28%)にHa-ras, 16例(41%)にC-myc癌遺伝子の転写亢進があることが確認されたが, これらの転写亢進は癌巣の部位によってその度合が異なっており, また組織型別にみると, Ha-rasは高分化腺癌で転写亢進の率が高いが, C-mycは組織型による差があまりみられないことが分かった. 一方, 胎児形質を有する大腸腺腫には, 研究の初期にはいずれの癌遺伝子mRNAも検出することができなかったが, 組織標本の作製法に改良を加え, 固定時間の短縮や低温下での脱水を行なうことによって, 少数例ながら, 腺癌上皮細胞の細胞質にHa-rasやC-myc癌遺伝子のmRNAを検出できるようになった. しかし, 一般に腺腫では, 癌組織におけるほど高度の転写亢進がおこっているものは少なく, また, 腺腫の部位による転写の強弱がみられる例も少なかった. 胎児形質を有する腺腫上皮の培養では, 最長3ヵ付間可能であったが, トランスフェクション実験に用いうる程の細胞数が得られなかった. しかし, 培養中に腺腫細胞の形態が変化し, 異型度の強くなる例がみつかり, 興味がもたれた.
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