研究概要 |
重症腹腔内感染時の敗血症性ショックは重篤で, 多臓器不全(MOF)となり, 治療に難渋することも多く, 致命率も高い. そこで, 重症細菌性腹膜炎時に発生する肝不全に注目し, われわれの開発した腹膜炎モデルを用い, 血中エンドトキシン(以後Etと略す)の変動を中心に, 肝障害の発生機序-肝障害発生過程-を検討した. 雑種成犬を用い, 以下の実験モデルを作成した. I群:胸管ドレナージ, 腹腔内生食投与(腹腔内Et(-)かつ全身血中Et(-), 対照群). II群:胸管非ドレナージ, 腹腔内Et(Difco B50)0.5mg/kg投与(腹腔内Et(T)かつ全身血中Et(T)群). III群:胸管T右リンパ本幹ドレナージ, 腹腔内Et同量投与(腹腔内Et(T)かつ全身血(-)群). 以上の各モデルにてEt投与後3時間まで, 血行動態の観察, 全身血中の白血球数, 血小板数, β-glucronidase値, transaminase値, 白血球化学発光量, リンパ液中のMDA値の測定, 右リンパ本幹リンパ液・胸管リンパ液・門脈血・全身血のEtの定量を行なった. I群(対照群)では肝障害を認めず, 各パラメーターの変動を認めなかった. II群ではGOT, LDHの有意の上昇を認め, 30分後に白血球, 血小板の有意の低下を, 60分後より動脈圧, 肝, 腸組織血流量の有意の低下を認めた. リンパ液中のMDA値は有意の変動を認めなかった. III群では肝障害を認めず, 各パラメーターの変動も軽微であった. 以上の結果より, 肝障害を惹起するには腹腔内Etの存在は重要でなく, 血中にEtが出現することが重要であり, その結果, 補体・凝固因子, さらには白血球・血小板・マクロファージといった間葉系細胞とのinteraction後に放出されるchemical mediatorにより生じるものと考えられ, 本実験の全経過3時間以内では, 活性酵素, 過酸化脂質による細胞障害までには到らないと考えられた.
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