研究概要 |
1.61年度におこなった実験の結果から, 1)ヘパリン化PVA-SiO_2で処理した人工血管の移植成績は, 明らかに未処理の群より良好であり, ヘパリン化により高められた抗血栓性が, 静脈移植用人工血管として有利に作用していると考えられた. 2)2週目以上の中・長期移植については充分な評価ができなかったが, 閉塞の機序についての詳細な検討が必要であると考えられた. 2.62年度の新シリーズとして, 材料自体に高い抗血栓性をもつPolyurethaneをヘパリン化したものについても評価した. 1)内径8mmのPolyurethaneチューブとヘパリン化Polyurethaneチューブを成犬(10kg)の上大静脈に15分, 30分, 60分間留置した. 2)内径10mm, 長さ2cmの同様のチューブを, 成犬の上大静脈を1.5cm摘除し, 端々吻合により移植した. 縫合糸はePTFE糸7-0を用いた. 3.結果, 1)留置試験では, 未処理のPolyurethaneは, 軽微ではあるが15分後に赤血球を主体とする血栓の付着がみられ, 時間の経過と共に徐々に増加した, ヘパリン化Polyurethaneでは, 15分後には血栓は肉眼的にはみられず, 走査型電顕による観察でも, 散在的に血小板が付着するのみで, 時間が経過しても著しい変化はみられなかった. 2)移植実験の結果, 未処理のPolyurethaneは3例すべて1週間目までに閉塞した. ヘパリン化Polyurethaneは5匹に移植し, 4日目に死亡した1例, 1週間目の犠牲死3例すべて開存し, 1例が閉塞した. 4.考察および結語, 1)抗血栓性の面から, ヘパリン化PVA-SiO_2とPolyurethaneでは, 前者が優れているが, ヘパリン化Polyurethaneとの比較では優劣は速断できなかった. 2)ヘパリン化Polyurethaneでは, 吻合部, 特に心臓側に血栓がみられるため, これに対する対策が必要であり, 吻合方法に工夫が必要であると考えられた. 3)ヘパリン化材料は静脈移植用血管として有望であり, 特にPolyurethaneでは, 生体血管に近似した弾性を持たせることが可能であり, 今後も継続して実験をおこなってゆきたい.
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