研究概要 |
奈良県救命救急センターにおいて、心臓移植のdonorとなり得る脳死患者総数は昭和61年度では11例であった。これらのうち家族の了解の得られた2例につき以下の検査を行った。これらの2例は脳死判定4日後に心停止した。 1.Swan-Ganzカテーテルを挿入した右心房圧,肺動脈圧,肺動脈楔入圧,心拍出量をモニターし、その他動脈圧,心電図をモニターした。脳死状態に陥った時点ではそれ以前の状態と比較して、収縮期血圧で40〜60mmHgの低下がみられるが、その他の指標はほとんど変化がない。血圧を上昇させるためにカテコラミンが使用されるが、その効果は一時的であり心係数は漸次低下し1日以内に再び血圧も低下する。カテコラミンの増量は同様の現象を操り返しやがて心停止に至る。 2.先端にトランスデューサーのついたカテーテルを経動脈的に左心室内に挿入し、正確な圧記録を行いmax dp/dtを求め脳死前後における変化をみた。脳死後は軽度ながら収縮性の低下がみられしかもカテコラミン投与下であることを考慮すれば心収縮性は経時的に低下を示していく可能性がある。 3.心機能に与える内部環境の影響をホルモンの動態より評価するため経時的にインスリン,グルカゴン,【T_3】,【T_4】,コルチゾール,アドレナリン,ノルアドレナリンを定量した。グルカゴンは脳死後時間とともに著明に増加したが、その他のホルモンでは一定の傾向が認められなかった。 4.心エコー法を用いて血行動態的検索を行った。左室容積はTeichholz法により求めた。左室駆出率,fractional shorteningは脳死後も低下せず、カテコラミン投与による影響と考えられた。 現状ではカテコラミンを使用し心機能指標が正常に維持されている可能性があり、donor heartの心虚血時間の耐久性をみる意味からも、今後カテコラミンの非使用例での検討を要する。
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