研究概要 |
砂ネズミに一過性前脳虚血を加えると海馬に神経細胞の選択的脱落が発性する. このモデルを用いて, 虚血により加わった神経細胞障害の可逆性に関する実験を行なった. 動物に5分間の虚血を負荷し, その直後にペントバルビタール, ジアゼパム,ニゾフェノンを投与した. いずれの薬物も, 海馬のCAI領域錐体細胞の数で判定すると有意な保護作用を示した. この中で, ペントバルビタールを用い, 投与の時期を虚血直後から, 15分,30分,1時間後とずらしていった場合の効果を調べた. その結果, 虚血直後から投与時間をずらすと, 薬剤の有意な効果がみとめられなくなることが判明した. 海馬の錐体細胞がなぜ特別に虚血に対して脆弱なのかは不明な点が多い. グルタミン酸などの興奮性神経伝達物質の作用が強く疑われてきたが, グルタミン酸やアスパラギン酸などの毒作用では説明しがたいことが多い. そこで, 海馬と同様な虚血に対する選択的脆弱性を示す部位として小脳をとりあげた. しかし小脳に虚血を加えるためには必然的に脳幹にも虚血が加わるため, これまで小脳虚血の実験的研究の報告はほとんど皆無に近い. われわれは, 人工呼吸下にラットの頭蓋内圧を急速に上昇させるモデルを用いて小脳の病変を観察した. その結果, 10分間の全脳虚血により小脳プルキンエ細胞の破壊が認められた. しかし, 海馬の選択的脆弱性の場合と全く異なり, 細胞は虚血負荷後に急速に崩壊像を呈し, 異なるメカニズムの存在を示した. この点については今後の研究が必要である. 次に, 臨床的にしばしば遭遇する局所脳虚血の実験を行なった. このモデルでは, 全(又は前)脳虚血と全く異なり虚血の加わった部位に急速に脳梗塞が進展した. その後の長期的観察では虚血と直接関係の無い遠隔部(視床・黒質)に広汎な変性が発生した. 局所脳虚血による脳傷害とその可逆性を実験するため, 現在一過性局所脳虚血をラットに負荷する実験を行いつつある.
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