研究概要 |
ラット背椎棘突起内にwalker癌, 線維肉腫の細胞を接種し78匹の全例に神経症状を惹起せしめ, 76%に骨融解像をみ, 骨破壊した腫瘍が直接背髄を圧迫していた. 腫瘍圧迫により生じる背髄変性の発生機序につき検索した結果, 次の点が明らかとなった. (1)生きたままのラットの圧迫部背髄後面の血管には, 血流の遅延と欝血がみられた. (2)圧迫初期では, 神経根の変性と当該背髄後索の変性が特徴的に認められた. 前者は腫瘍の直接圧迫により, 後者は後索部の小出血により惹起されたものであり, これらの変化は後索の上行線維束の変性像として投影されていた. (3)圧迫初期の背髄の変化は主として後索部の出血巣として認められ, この所見は圧迫のTypeによっても変ることはなかった. (4)圧迫の進行と共に出血巣は灰白質, 側索, 前索に広がり, 横断性背髄変性の像を呈するに至る. 以上の所見から, 本症に於いて背髄変性の発症には血管系の関与が強く示唆された. そこで, 麻痺の各stageにつき背髄血管の鋳型を作製して走査電顕的に観察した. その結果, (5)圧迫初期の後索部の出血は静脈の灌流不全のため, 欝血後に生じるものと判明した. 出血は静脈からのものであった. (6)圧迫が進行するにつれて, 出血巣は多くなる反面, 血管の数は減少し, 正常の血管構築像は消失していた. このことにより, 背髄変性の発生は直接的に静脈性出血に起因していると思惟された. 次いで, 出血の起こる以前に, 即ち, 圧迫浮腫の時期に変性が発生するか否かを考えた. (7)血管透過性の面より検索した結果, 麻痺が発生した後には, 一般にhorseradish peroxidaseの背髄内活性は組織学的変性所見と平行するが, 初期の軽度の圧迫下では本活性が背髄内で陽性を示しても出血を伴なわない限り神経細胞, 神経線維の変性は起こらない事が判明した. 以上により背髄変性を惹起する引き金となるものは静脈性出血であると考えられた.
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