研究概要 |
長時間麻酔を続けていると麻酔薬の作用が次第に減弱する, すなわち麻酔薬に対する急性耐性が発現するという現象が知られている. 我々は以前に笑気による脳波像への作用が2-3時間で減弱することをネコで観察し, 報告した. しかし, 急性耐性発現の有無は観察する作用によって異なり, ラットにおける笑気の鎮痛作用に対しては急性耐性は発現しないことを報告した. 本研究の目的は笑気の中枢作用の一つである抗痙攣作用に対する急性耐性発現の時間経過を明らかにしようとするものである. 成猫を用い, ペントバルビタール麻酔下に扁桃核, 海馬, 中脳網様体へ電極を留置した. 扁桃核を1日1回電気刺激し, 扁桃核燃え上がり痙攣ネコを作成した. 完成後, 脳波および中脳網様体電気活動を記録した. 空気吸入時を対照として, 75%笑気吸入30分, 1, 2, 5, 24時間後に電気刺激を行い, 痙攣の程度を比較検討した. 脳波および行動上は5時間後までは笑気の作用が認められたが, 以後, 笑気の作用は減弱した. 抗痙攣作用は吸入30分ないし1時間が最大であり, 以後は抗痙攣作用は減弱した. 付随研究としてラットのビククリン誘発痙攣に対する笑気の抗痙攣作用を観察したが, この場合は抗痙攣作用は周期的変動を示し, 急性耐性発現では説明できなかった. また痙攣が持続している患者に笑気を吸入させると, 直ちに脳波上の棘波は消失し, その作用は笑気を吸入した18時間持続した. 笑気吸入中止後は棘波の出現頻度が吸入前よりも増加し, 笑気に対する依存性を示した. 本研究の扁桃核燃え上がり痙攣に対する笑気の抗痙攣作用の減弱は他の笑気の中枢作用に対する急性耐性発現よりも急速であった. この時間経過の違うこと, さらに急性耐性が発現しない作用が存在することは, 作用発現に関与する中枢神経の神経網もしくは神経伝達物質の違いに起因すると考えられる.
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