研究概要 |
1.麻酔薬は生理的な代謝による臓器血流調節機構を破綻させ, 全身の血流分布の変化を生じる. 一般に, 吸入麻酔薬は脳代謝を抑制するが, 脳血流を増加させる. バルビツレートは脳代謝を抑制し血流を減少させる. 本研究では, 麻酔薬の血管作用の臓器特異性について検討した. 2.雑種成犬の外径0.6-1.0mmの脳底動脈と腸間膜動脈のラセン状条片を作成し, 95%O_2, 5%CO_2で飽和した37゜Cリンゲル液中に1.5gの張力を負荷して懸垂し, その等尺生張力変化を記録した. 3.吸入麻酔薬のハロセン(H)1-3MAC(0.75-2.25%)は脳動脈を弛緩させたが, 腸間膜動脈を一過性に収縮させた後部分的に弛緩させた. イソフルレン(I)はMAC(1.15-3.45%)は脳動脈を一過性に収縮させた後, 弛緩させた. Iは腸間膜動脈には何ら作用を示さなかった. 4.バルビツレートのサイアミラール(TA)は10^<-5>-10^<-3>Mで脳および腸間膜動脈を収縮させた. この収縮作用は脳動脈>腸間膜動脈(P<0.05)であった. 5.Hの腸間膜動脈収縮作用, IおよびTAの脳動脈収縮作用はフエントラミン, シナンセリン, ジフェンヒドラミンによって影響を受けなかった. これらの収縮作用はCa拮抗薬であるニフェジピン10^<-6>MとCa除去EGTA0.1mM添加溶液中で有意に抑制された. 6.以上の成績から, (1)ハロセンとイソフルレン, およびサイアミラールにはその血管作用に臓器特異性がある. (2)麻酔薬の血管収縮作用は薬理学的な受容体を介するものではなく, 細胞外からのCa流入が関与する. (3)脳血流に対する作用は麻酔薬の脳代謝抑制作用に加え, 直接脳動脈作用と, 脳以外の動脈に対する作用の相違によって生じる血液の再分布の変化が関与すると考えられる.
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