研究概要 |
セレンおよびビスマス化合物はCDDPの抗腫瘍作用をそこなわずにその腎毒性を軽減することが動物実験により明らかにされた。しかしセレン化合物は医薬部外品、劇毒物とされ臨床的使用には問題がある。そこで常用医薬品である次硝酸ビスマスのCDDP腎毒性軽減効果を臨床例で検討した。 対象は尿路性器進行癌23例(膀胱癌11,腎盂尿管癌6,睾丸腫瘍4,前立腺癌2)である。CDDPの投与は単独または併用化学療法により行なわれた。予防投与11,治療投与12,累計67コースであった。次硝酸ビスマスは50mg/kg体重を分3経口にて、CDDP投与に先立つ2日間(n=10)または5日間(n=5)連続して投与し、最後投与の約12時間後にCDDPを充分な水利尿と制吐剤の使用のもとに投与した。8例にはビスマスを前投与せず対照群とした。 治療投与群12例、13回の化学療法の直接効果(日本癌治療学会判定基準,1980)が判定され、奏効率:(CR+PR)/nは対照群で33.3%、次硝酸ビスマス投与群で50%であった。次硝酸ビスマスの前投与がCDDPを含む化学療法の抗腫瘍作用を阻害するとは考え難い。CDDP治療中は3群とも血清クレアチニン(sCr)値の上昇、クレアチニンクリアランス(Ccr)値の低下、尿中NAG、αGTP【β_2】ミクログロブリン排泄量の上昇を一過性に認めた。化学療法全コース前後の比較では次硝酸ビスマス5日間投与群でsCrの上昇率とCcrの低下率が他群に比し低い傾向があった。治療終了後安定期のCcrを治療前値の百分率で表示し、CDDPの累積投与量との関係をみると、5日間投与群でCDDP投与によるCcrの減少率が低い傾向にあった。対象症例には腎機能障害例が多く、今回の少数例の検討では結論をうるにいたらなかったが、次硝酸ビスマスの前投与が患者に不利に働くことはなく、腎機能の保護に有効であるように思われる。次硝酸ビスマス前投与法の臨床例での有効性を正確に判定するには、さらに多数例での検討が必要である。
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