研究概要 |
過去の研究において、上皮性卵巣腫瘍がエストロゲン(E)産生能を有していることを、内分泌学的,組織化学的,免疫組織化学的,超微形態学的に証明してきたが、一方では、この腫瘍が性ステロイドレセプターであるエストロゲンレセプター(ER),プロゲステロンレセプター(PR)を有することが判明しており、特にER値とエストロゲン産生能との間に密接な相互関係があることを確認してきた。この事実は、本腫瘍が何等かの機能においてホルモン依存性を有するものと推測される。そこで、上皮性卵巣腫瘍が有するER,PRについて、腫瘍の組織学的特徴,ならびに腫瘍内E産生能との関連において検討し、その生物学的意義に関して移植腫瘍,培養細胞を用いて検討した。 DCC法により測定した腫瘍組織のER,PR陽性率は、全症例では、それぞれ62.2%,22.2%とERの陽性率がより高率であった。ER陽性率は、閉経前より閉経後腫瘍に、また良性より悪性腫瘍により高率に認められた。組織型では、ムチン性腫瘍に最も高率であったが、腫瘍細胞の組織学的分化度との関連では、高分化型に高率を示した。腫瘍組織内E値が高値を示すものはすべてER陽性を示し、E産生量とER量との間に相関が認められた。autoradiographyによる検討では、分化型細胞に集中して標識エストラジオールのgrainを認め、標識エストラジオールは細胞質より核内に移行することが確認された。ヌードマウス移植実験ではE投与による腫瘍増大速度の促進は認められず、また培養細胞系でもEによる細胞増生の促進効果を認めなかった。すなわち、上皮性卵巣腫瘍細胞におけるER存在の機能的意義は、Eによる細胞増殖の過程に関与するものではなく、むしろ癌細胞の分化に関わる可能性が推測された。
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