| 研究概要 |
脈幹網様体の中には急速眼球運動のコントロールに重要な役割を果している細胞群がある. その中でPause Neuron(PN)とよばれている細胞群は, 眼振の緩徐相や, 眼球が動いていない時に活動を行い, 急速相や衝動性眼球運動の開始直前に活動を停止してこれらの急速眼球運動をコントロールするとされている. PNの役割, 特に出力系に関してはいくつかの報告があるが, 入力系, つまり介がPNの動きをコントロールしているかは不明な点が多い. 本研究ではまずHorseradish Peraxidase(HRP)を用い, PNへの入力系を組織学的に検討した. その結果PNへは, 延髄レベルでは巨大細胞網様核, 小細胞網様核, 前庭神経内側核, 前庭神経外側核, 前庭神経下核, 舌下神経前位核からの入力が認められた. 橋レベルでは橋被蓋網様核, 橋網様尾側核, 橋網様吻側核からの入力があり, 更に中脳レベルでは青斑核, 背側縫線核, 上丘からの入力が認められた. この中で特に注目されたのは前庭神経内側核および外側核の腹側部からPNへ線維連絡のある事である. この部位は水平眼球運動の調節に重要な役割を持つ細胞群の集合している部位であり, この部位からPNへ直接の連絡のある事はこの系の水平眼球運動に対する役割を示唆するものである. そこで前庭神経核からPNへ直接の線維連絡が存在する事を電気生理学的に確認すると共に, PNの活動に対する前庭神経核ニューロンの役割を検討した. その結果前庭神経外側核および内側核の腹側部に存在するTypeIおよびTypeIIニューロンがPN領域に単シナプス性の線維連絡を有する事が判明した. この線維連絡は電気生理学的結果から抑制性のものと考えられた. この前庭神経核からPNへ投射する経路の意義の詳細は現在のところ不明であるが, 前庭神経核は, 末梢前庭器その他から入力を受け眼運動系へ投射する重要な中継核であるので, この系が前庭→眼運動系へのフィードバック作用を行うと思われる.
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