研究概要 |
嚥下, とくに第II期の障害例の病態生理についてはなお不明な点が多く, しかも的確な診断法は確立されていない. 本研究課題では嚥下の病態生理を明らかにする目的で嚥下障害モデル動物を作成するとともに, 嚥下障害診断法としての嚥下圧測定法の意義を検討した. 1.病的嚥下機構の病態生理に関する研究: 鉄欠乏性貧血では嚥下障害を招くがその発症機転は未だ不明である. その病態を明らかにするために鉄欠乏性家兎を作成し検討した. 鉄欠乏動物の作成は除鉄飼料による飼育と鉄キレート剤の筋注によった. 正常家兎と鉄欠乏家兎の嚥下関与筋を組織化学的に検討した結果, 鉄欠乏家兎群では嚥下筋の一つである輪状咽頭筋のタイプI線維のミトコンドリアに脱顆粒現象が観察された. かかる酵素染色能の異常は筋無力症などで観察される所見である. 従って, 鉄欠乏が嚥下筋の筋無力を招き, 食塊の輸送力が低下させ嚥下障害を引き起こしているものと考えられた. 2.嚥下圧曲線分類法の臨床的意義に関する研究: 嚥下圧を体内圧トランスデューサ法にて測定し, 嚥下圧値より求められる嚥下圧曲線は5型に分類される. すなわち, I型は正常型, II型は圧亢進型でIIa型は食道入口部, IIb型は下咽頭部の圧亢進型, III型は圧低下型でIIIa型は下咽頭部, IIIb型は軟口蓋部の圧低下を示す型である. かかる分類法の妥当性を臨床例で検討したところ, 嚥下障害の病態生理を明らかにするばかりでなく, 障害部位の診断, 治療法の選択, 治療経過の把握に有意義な検査法であることが確認された. 3.まとめ: 嚥下障害モデル動物を作成しその病態生理の一部を解明すると共に, 嚥下圧測定法の診断的意義を明らかにした.
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