研究概要 |
I)脳死を経た, 側頭骨病理標本と脳病理標本は5例, 集めることが出来た. 現在までに1例のみすべての組織標本が完成したので, これを検索した. 側頭骨では, 蝸牛は, コルチ器の自己融解・血管条の別離が全回転に観察された. 蝸牛神経は保存されてはいたが配列が不整であった. 蝸牛神経核は, 背側核も腹側核も神経細胞の消失が著明であった. 上オリーブ核, 下丘, 内側膝状体, 聴皮質のニューロンは膨化していた. したがってABRが脳死状態で, 消失することは, 蝸牛レベルでの障害を疑わせた. II)脳死状態の誘発反応による評価・脳波が平坦になり, ABRも消失して, 脳幹死状態になっても, 視覚誘発電位の網膜電位が60%は残存しており, 新な脳死の判定のための指標として重要な価値があると考えられる. III)電気刺激による聴性誘発反応:ヒトでは人工内耳を移植した1例について調べた. 人工内耳は米国3M社製のシングルチャンネルのものを用いた. 音刺激として与えたクリックは内部レシーバーにより電気刺激に変換された. 中間潜時反応と緩反応は良好に記録された. しかし, 潜時20msecまでは電磁波誘導によるアーチファクトが混入し, 記録としてはABRは区別できなかった. しかし, モルモットやネコでは正円窓の電気刺激でABRは記録された. したがって実験的にはABRは電気刺激によっても記録されるが患者に対してはアーチファクトの処理が難しく適当ではないと考えられた. 患者にはP300のプロトコールで250Hz VS 500Hz, 語音のAKA VS KUROの弁別をさせたところ, P300,N400が出現した. 電気刺激の誘発反応は脳幹よりも大脳機能検査にむしろ適当と考えられた.
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