研究概要 |
妊娠4日Rメチルニトロソウレアを10mg/kg腹腔内投与された SlC:ICRマウスの雌に, 小眼症を伴う両側性の白内障を発症する雄の子が一匹産まれ, この性質は兄妹交配で子孫に遺伝した. 正常SlC:ICRマウスとの交配実験より, この突然変異は常染色体劣性遺伝をすること, 及び, 毛色遺伝子のbrown locusとのリンケージ・テストの結果, この遺伝子はB__-遺伝子と連鎖して第4染色体上にあることが証明された. 親の突然変異マウスの目には種々の組織学的異常がみられ, 水晶体は正常に比べて小さく, 前極部で角膜に密着し, 水晶体物質は角膜と眼瞼の間の隙間に漏出し, 水晶体線維は融解や変性を起していた. 神経網膜には大きな褶曲やロゼットが形成されていた. 発生過程を組織学的に調べると, 正常胚では胎生11日で水晶体胞は表皮外胚葉から分離するが, 突然変異胚では分離せず, 細胞索で表皮とつながっていた. 胎生13日には突然変異胚の神経網膜に大きな褶曲が形成され, 水晶体は角膜原基に密着し, 水晶体上皮と角膜上皮の間で細胞索による連結がみられた. 胎生14日の正常胚では水晶体と角膜が大きく離れて前眼房の形成が開始されるが, 突然変異胚では水晶体は角膜と密着したままで前眼房の形成はみられなかった. 胎生15日から16日の突然変異胚では水晶体線維の変性や配列の乱れが観察され, 水晶体物質が前極部や後面から漏出していた. これらの結果から, 我々の得た突然変異マウスの遺伝子はSanyalとHawkins(1979)が報告したdysgenetic lens (遺伝子記号 dyl)の複対立遺伝子と思われたが, 確証が得られるまでは暫定的にdysgenetic lens and retina(遺伝子記号 dlr)と名づけられた.
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