研究概要 |
毛細血管を含む末梢循環を血管鋳型とSEMで観察する『血管鋳型法』と軟組織のみを溶解し骨と血管との関係をみる『蛋白分解酵素法』とを併用して, 歯に矯正力が加わった場合に, 歯根膜血管網の変化と歯槽骨の改造が, どのように起こるかを形態的に観察した. その結果, 矯正力が歯に加わった場合, 歯根膜血管網は, 歯の移動によってループ状へと変化し, ループの先端は移動方向と一致する. また移動の速度が大きいときは両脚間が狭いヘヤーピン型となり, 速度の小さいときは両脚間が広いループが形成されることから, 移動量と移動方向とが歯根膜血管網の変化との間に一定の関係が成り立つことを示した. さらに歯が移動する場合には, 移動期と不動期とが交互に起こる間欠的な動きであることを, 形態学的に証明した. すなわち生理学的な矯正力下においては, 圧迫側の歯根膜血管網は残存し, その下の歯槽骨壁の表面には, 骨吸収窩が出現し, この吸収窩に向って歯根膜の血管が侵入していく. このように圧迫側の歯槽壁を表面から順に吸収しながら歯は移動していく. しかしながら生理的限界を越えると, 圧迫側の血管網に非可逆的な血栓が起こり, 血管鋳型標本では血栓が起きている範囲に一致して血管消失部が現われ, その部分の歯槽骨は露出する. このように血管が存在しない露出部では, 歯槽骨表面からの吸収は不可能となり, その部は丸く島状にのこる. そのために歯は移動できない. このような場合には, 血管消失部周囲の血管が吻合し, 血管ループを作り, 同時にループは拡張し, 歯槽骨露出部をその周縁から吸収していく. また露出部の下方から骨髄の血管が伸び, 骨髄側から歯槽骨を吸収していく. (穿下性骨吸収), その部に血管網が再構築される. そして14日以後, 歯は再び移動を開始する. 要するに歯槽骨が吸収されるときには, 血管網が存在し, 血管網が全て消失した部分には, 歯槽骨の吸収は起こらない.
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