研究概要 |
カチオン選択性透過膜を生体膜モデルとして利用することにより, エナメル質石灰化機構のinvitro実験を行ってきた. その結果, イオンを一方向的に拡散させることにより, 生成結晶を配向析出させることに成功した. この際のイオン供給速度をコントロールすることにより, 析出相は変化し, エナメル質様のリボン状に成長したオクタカルシウムフォスフェート(OCP)から無配向の象牙質・骨様のハイドロキシアパタイト(HAp)まで, 自由に調節して析出させ得ることも判った. また, 極く微量のフッ素イオンの存在はOCPの加水分解速度ならびに析出結晶粒子の形態にも影響をおよぼすことが明らかとなった. OCPを加水分解してHApに転化させる際の加水分解条件も結晶の形態を支配する重要な因子であり, 結晶核形成・結晶成長・加水分解の各過程における経過時間が最も大切であることも判った. グラスファイバーを利用することによる配向拡散においては, ファイバーの孔経が重要な因子となり, 市販のグラスファイバーではイオン選択性透過膜に近い効果を得ることは困難であった. アパタイトの結晶成長に対して阻害効果を示すカーボネイトイオンは, OCP結晶の形成ならびに成長には特異的に作用し, 5mMまでのCO_3^<2->の共存はかえってOCP形成を促進した. これは, CO_3^<2->共存条件下でのアパタイトの溶解性の増大とOCPの加水分解速度との相関によるものと考えられた. 一方, 少量のマグネシウムイオンの共存はOCP形成を抑制した. また, 極く少量のフッ素イオン共存によるOCPの加水分解において, 板状の結晶はC軸に沿って細分化され, 結局, C軸方向の配向性が保たれたままアパタイトに転化することも明らかとなった.
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