研究概要 |
一般に顎下腺からのムチン分泌は主としてβーアドレナリン受容体刺激により惹起され,αーアドレナリン作動性およびムスカリン様コリン作動性機序或いはCa^<2+>は必ずしも不可欠ではないとされている。本研究ではイヌ顎下腺におけるアドレナリン作動性およびムスカリン様コリン作動性刺激のムチン分泌とCa^<2+>の関与について検討した。まず,イヌ顎下腺をコラゲナ-ゼ/ヒアルロニダ-ゼなどで処理し,βーadrenergic agonistsに対し,ムチン分泌反応性の高い単離細胞を得ることに成功した。この標本においてαー受容体作動性薬はムチン分泌を促進した。この反応は外液Ca^<2+>を除去することにより抑制された。β受容体を介する反応は一部Ca^<2+>依存在であり,これはbetaー受容体のcAMP形成促進評程におけるCa^<2+>要求性に基づくものであった。8ーbrーcAMPによるムチン分泌は,外液Ca^<2+>の除去,TMBー8,BAPTA等の処置によっては消失しなかったが,ionomycin処置により消失した。8ーbrーcAMPは^<45>Caで標識した細胞から^<45>Caの遊離を促進した。ムスカリン様コリン作動性薬はムチン分泌を促進した。この分泌反応はアドレナリン作動性薬に対する分泌反応より顕著であり,外液Ca^<2+>の存在に大きく依存していた。Ca^<2+>イオノフォアであるionomycinもムチン分泌を促進した。尚ラット顎下腺ではacetylcholineやionomycinはムチン分泌促進作用は極めて弱いものであった。従ってこれらの成績はこれまでの定説と違って,アドレナリン作動性機構のみならずムスカリン様コリン作動性機構もまたムチン分泌の調節に関与すること,又Ca^<2+>がムチン分泌機序に含まれる可能性を示唆した。 これまで唾液腺における分泌機構の研究の多くはラットを用いて行われているが,本研究結果よりイヌ顎下腺はCa^<2+>依存性分泌機序を研究する上で極めて有益な標本であることが明らかとなった。
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