研究概要 |
サルの幼若永久歯に水酸化カルシウム応用の生活歯髄切断法を無菌的処置下で施し, 壊死層を中心に経時的に組織変化と初期庇蓋硬組織形成を光顕と電顕で観察した. 歯根形成が1/2〜3/4の28歯を実験に用い, 歯根がほぼ完成した下顎前歯を未処置で対照とした. 実験群は, バーによる機械的切断, chemical surgeryによる化学的切断, 水酸化カルシウム貼付直後, 6,9,12,24時間,2,3,4,7日後とした. 実験終了後, Kannoussky液で固定, 5%ショ糖加EDTA液中で脱灰し, 8μmのパラフィン連続切片の作製およびエポン812包埋後薄切し, 光顕ならびに透過電顕による観察を行った. 機械的切断では挫滅創を形成し, 象牙質削片の一部埋入や切断直下の根管壁で歯髄の離断や出血があったが, chemical surgeryで約0.5mmほど歯髄は溶解除去され切創面となり, 埋入削片も少なく血餅が覆っていた. 歯髄表層は染色性がやや失われ, その象牙芽細胞は変性壊死に陥っていたが, 組織傷害は表層に限局し軽微であった. 水酸化カルシウム貼付直後, 歯髄の無構造化とHE染色性の低下を示す壊死層形成が充血, 出血を伴いみられた. 6時間例では, 変性壊死層と血餅壊死層との境界付近にエオジンコ好性の小球状物がみられたが, 9時間例は壊死層の器質化が進んでいたが小球状構造も観察された. 電顕的には小球状物は内部が放射状に走る針状結晶様物質からなり, 周囲は電子密度の高い物質でとり囲まれていた. また, 歯髄の変性壊死層の表層部には比較的電子密度の高い変性細胞様物にコラーゲン線維が移行する形で線維象牙質基質形成を認めた. 7日例では, 大型の紡錘形細胞の発現と変性細胞などを包むように線維性象牙質基質形成が明らかとなった. 血餅壊死層深部の小球状の針状結晶様物は癒合し, 大きくなる傾向を示し, また電子密度の高い微細顆粒, 細胞破片, 断裂コラーゲン細線維などが初期庇蓋硬組織形成(石灰化)の起始部になるようにも思われた.
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