研究概要 |
本年度では, 前年度のデータにさらに50例以上の顎関節症患者のデータを集積, 追加し, すでに分析ずみのコントロールデータ(正常被検者に咬合干渉を実験的に付与して, EMGの経日的変化を観察)と比較し, 咬合異常に起因する顎機能のEMG所見に関する共通した特徴と必ずしも診査資料となりえないパラメータの区別を行った. しかし, 61年度の反省点としてあげたとうり, 正常者(顎口腔系に何ら自覚症状の無い者)においても各パラメータ値に相当のバラツキがあることから, 多数例の正常者につき調査を行ったところ約25%に顎関節症患者のデータに近い所見がみとめられ, 不顕性と思われるグループのあることが, 明らかになった. そこで本年度では, 正常値に関して検討した. 得られた成績の概要は次のとうりである. (1)咬合に起因する顎関節症患者のEMG所見で, 共通して診査資料となるのは, 咬筋活動の抑制傾向と筋活動のonset time とoffset timeの早まりであることが明らかになった. (2)顎口腔系に異常を自覚しない正常者のうち, 筋触診で約25%に圧痛を認め, 顎二腹筋後部に最も多かった. これらのEMG所見では, 筋活動の積分電位は正常者の他の群に比べて有意に小さいこと, 働側咬筋優勢パターンが崩壊することなどの特徴がわかった. (3)本年度の結果から, EMGによる顎機能の診査コードを作るにあたっては正常値とその範囲を決定するのにはさらに慎重であることの必要性が生じた. つまり, "不顕性疾患"と思われる群が実際に本症の前駆状態にあるのか, あるいは経年的変化にもとづく生理的補償のあらわれかとの問題を, 今後年齢との関わりも含めさらに追究すべき点であろうと思われた.
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