研究概要 |
動植物など天然物由来の薬用材料が漢方で医療に供される場合, 新鮮材料がそのまま用いられることは少なく, 修治と称される加工行程を経たのちに生薬として方剤中に配剤されている. しかし, 修治の目的や効能が臨床経験から裏づけられている場合もあるが, 不明な点が多く近代科学的解明は充分ではない. 私達は, 生薬修治の科学的解明が新しい医薬素材の発見にもつながると考え, 附子, 人参などの重要生薬の修治における化学過程の解明研究を進めている. 本研究では地黄, 甘草についてこれまでに以下の知見を得た. 地黄は新鮮根(生地黄)を乾燥処理した乾地黄と, 蒸すなどの加工処理した熱地黄に大別され, 性味, 効能の異なった薬物として区別して方剤中に用いられる. そこで, まず中国産乾地黄の含有成分を詳細に検討した結果, 新規成分としてイリドイド4種rehmaglutin A,B,C,D,イリドイド配糖体glutinoside, ヨノン配糖体rehmaionoside A,B,Cおよびモノテルペン配糖体rehmapicrosideを単離し, それらの絶対構造を含めた全化学構造を決定した. さらに, 中国産熟地黄, 韓国産乾地黄および日本産生, 乾, 熟地黄の含有成分を比較検討し, 地黄修治における含有成分の化学変化や含量の変動を明らかにした. また, これらの地黄成分の中から膀胱や尿道平滑筋に対する作用を有するものが見いだされた. 甘草は最も繁用される生薬であり, 中国では甘草を蜜と加熱処理するなどした炙甘草やコルク皮を除いた皮去り甘草が用いられている. 漢方方剤中に主として用いられる東北甘草について, その含有成分を検討したところ種々のフラボノイド配糖体などを単離同定するとともに, 新規トリテルペンオリゴ配糖体licorice-saponin A3,B2,C2,D3,E2,F3,G2,H2を単離しそれらの化学構造を明らかにした. この様に当初の計画に対し, ほぼ満足できる結果を得た.
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