研究概要 |
二十世紀ナシ黒班病気菌の生産する宿主特異的毒素, AK-Toxin類は, その存在か示唆されて以来五十年の歳月を経てやっとその構造が確定した特異な化学構造を持つ毒素である. 本研究はこの毒素の化学構造と毒性との関係を明らかにする目的を持って行われた. この目的の達成には本毒性を光学活性体として全合成することが求められ, さらに多くの関連合物も合成しなくてはならない. さて, 本研究は毒素を二つの構成要素に分割して合成を行った. 一つの要素はフェニルアラニン誘導体であり, 他の一つは炭素11個よりなるトリエンカルボン酸である. 後者の合成にはビタミンCを光学活性原料として用いた. ビタミンCを3-メチルー2-シロキシー3-ブテナールに導き, このアルデヒド基を用いてビッツヒ反応と酸化, 還元反応を繰り返し目的とするトリエンカルボン酸部を合成した. これとアセチルフェニルアラニンとを縮合し, AK-Toxinメチルエステルの全合成を達成した. この全合成に至る過程で得られた種々の誘導体の宿主に対する毒性を検した結果, トリエンカルボン酸部の持つ二つの不斉中心の立体配位が毒性の発現に密接に関係していることが明らかになった. 一方, 最近イチゴ黒斑病菌の生産する毒素, AF-Toxin類の平面構造が明らかにされた. その構造はAK-TOXimと近似していることより, 研究をAF-Toxin類の全合成へと進めた. イソロイシンを, 2位の水酸基の配位を異にする二種の光学活性2-オキシ酸誘導体に導びき, 夫々を上記のトリエンカルボン酸部と縮合し, AF-Toxin IIa, IIcの全構造を合成的に確証することに成功した. 本研究によって, 宿主特異的毒素の立体構造が毒性の発現と密接に関係していることが明らかにされた. また, ビタミンCが天然物合成に不斉源として充分利用出来る一つの実例を示すことが出来た.
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