研究概要 |
ケンゴ子, ハリアサガオ種子は, 西欧のヤラッパ根, オリザバ根に対し, 東アジアで瀉下を目的に使用される重要生薬である. これらの有効成分はいわゆる樹脂配糖体と称され, 分子量数万のコンプレックスグリコリピドといわれ, エーテル可溶性の"jalapin"および不溶性の"convolvulin"に大別される. それらの化学的研究は百余年前に遡るが, これまでケン化生成物, 有機酸, 配糖酸の構造研究のみに終始し, 本体の構造は末詳のまゝである. 最近我々はオリザバ根, ハリアサガオ種子の"jalapin"相当のそれぞれ4, 6種の単離に初めて成功し構造決定した. これらは予想と異り, 配糖酸に有機酸の結合したrepeating unit1個よりなり, しかもアグリコンのカルボキシル基が糖部水酸基と大環状エステル結合した新奇な構造であった. 本研究では, 1.ケンゴ子の樹脂配糖体pharbitinは"convolvulin"に属し, TLC, HPLCの挙動は上記"jalapin"と著しく異りブロードな単一ピークしか示さない. これは遊離カルボキシ基の存在によると考えられ, CH_2N_2メチル化で分離可能となりプレパラティブHPLCで10種の化合物を得, 負イオンFAB-MS, ^1H-, ^<13>C-NMR, 部分水解等により構造決定した. これらはすべて新配糖酸, pharbitic acid A, Bあるいは既知のC, Dのメチルエステルまたはこれに2-methylbutyric, nilic acidが2〜3個結合したモノマーであった. これらの脱メチル化体がpharbitinの本体であるとするには疑問があり, 更に検討の予定である. 2.ハリアサガオ種子の新"jalapin"2種を単離構造決定した. 3.ハリアサガオ種子, オリザバ根, ケンゴ子の構成有機酸, オキシ脂肪酸である2-methylbutyric, nilic, jalapinolic acidはいずれも不斉中心1〜2個をもつ. これらの絶対配置の決定を行い, それぞれ2S-, 2R, 3R-(オリザバ根では2S, 3S-), 11R-体と決定した. このことによりこれまで得られた樹脂配糖体の全構造が決定された.
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