研究概要 |
ヒト白血病細胞をTPAで処理すると分化し, その初期にc-fos遺伝子の発現が一過性に上昇する. 本研究は, このc-fos誘導の機構を, Caの関与する反応の面から解析することを目的としている. c-fos誘導はCa依存性C-キナーゼを活性化するフォルボールエステル(TPA)やカルシウムイオノフォアにより誘起され, この誘導はC-キナーゼ阻害剤やカルモジュリン拮抗剤により阻害された. しかし, TPAとA23187の作用は相乗的であり, 刺激伝達系は異なっていると考えられた. 遺伝子の転写はクロマチン構造の変化を伴なう場合が多いので, 誘導後のc-fos遺伝子高次構造の変化を検討した. 又クレアーゼ感受性部位がc-fos5′上流に4ヵ所認められたが, 誘導により変化しなかった. しかし, トポイソメラーゼI, IIによるDNA鎖切断がc-fos遺伝子上に存在し, トポイソメラーゼ阻害剤はc-fos誘導を抑制した. 従って, 誘導にはDNAコンポメーションの変化が必要と考えられた. TPAや血清などで細胞を刺激すると細胞内pHの上昇とO_2^-産生が数分以内に見られる. pHi上昇はC-キナーゼ活性化の結果と考えられるが, SODにより抑制され, またキサンチンオキシメーゼで産生されるC_2^-によっても同様のpHi上昇されることから, C-キナーゼによりC_2^-が産生され, O_2^-がpHi上昇の直接シグナルとなっていることが明らかとなった. 静止期のBALB/3T3細胞をO_2^-で処理するとDNA合成が開始し, その初期にはc-fos, c-mycの誘導が見られた. 以上の結果を総合すると, Ca^Hにより活性化されるC-キナーゼの作用により細胞からO_2^-が産生され, このO_2^-が細胞外から作用して細胞内pHが上昇する. pH上昇が次のシグナルとなってc-fosの誘導が起こると考えられた.
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