研究概要 |
心房性ナトリウム利尿ポリペプチド(atrial natriuretic polypeptide,ANP)は, 強力な利尿作用と血管平滑筋弛緩作用を有するホルモン様物質であるが, 腎臓におけるANP受容体の分布とその生理的意義については不明の点が多い. 本研究では腎におけるANPの作用部位, 作用機序を受容体レベルから解明することを目的として, 尿細管上皮細胞膜及び培養腎上皮細胞を用いANP受容体の特性並びに病態下での変動や活性調節機構について検討を加えた. 1.^<125>I-α-hANPと腎皮質細胞分画成分との相互作用について検討した結果, 尿細管側底膜に特異的なANP受容体の存在することが示された. 2.培養腎上皮細胞(LLC-PK_1)を用いて^<125>I-α-hANPの結合性を検討したところ, 特異的なANP受容体の存在することが示された. 更にこの細胞系は, α-hANPの用量に依存してcGMP産生応答を示すことがわかった. 3.高血圧自然発症ラット(SHR)を用いて, 病態時における腎皮質ANP受容体の性状について検討した. 高血圧発症後(14-15週令)のSHR群では, WKY群に比して高親和性ANP受容体のKα値並びに結合部位数が減少し, またこの変化は疾患が重症であるSHR-SP群において一層顕著であった. 4.α-hANPの逆平行二量体であるβ-hANPは, α-hANPに比べcGMP産生作用が遅く持続的であること, β-hANPは変換したα-hANPのみならずそれ自身でもLLC-PK_1細胞のα-hANP受容体に相互作用する可能性が示された. 5.ANPとは逆の生理作用を示すバソプレッシン(AVP)とANPとの相互作用についてLLC-PK_1細胞を用い検討した. AVPは, α-hANPによるcGMP産生を用量依存的に抑制したが, phosphodiesterase阻害剤を共存させるとAVPの抑制作用は消失した. AVP受容体(V_1及びV_2)の役割について詳細に検討した結果, AVPはV_1受容体を介しcGMPの分解を促進することによって, α-hANPの作用に拮抗する可能性が示唆された.
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