研究概要 |
シアル酸を含むスフィンゴ糖脂質は特にガングリオシドと呼ばれ, 細胞膜を介した生理現象で様々な機能を持つことが明らかにされつつある. 近年確立された単クローン抗体を用いた腫瘍抗原の解析結果から, 腫瘍細胞は癌化に伴い新しいガングリオシドを出現してくることが明らかとなった. 同系マウス由来抗メラノーマB16細胞に対する単クローン抗体M2590は, 種を越えヒトを含む多くの動物細胞に由来するメラノーマと反応し正常組織とは反応しない. この抗体は正常組織に広く分布している平凡なガングリオシドGM_3を認識しており, この様な単純なガングリオシドがなぜ腫瘍抗原として機能するか関心が持たれている. 本研究では, B16メラノーマ中に存在する強力なシアリルトランスフェラーゼ活性を認めると共に, その精製を目的として研究を行なった. ガングリオシドを合成するシアリルトランスフェラーゼは精製が困難であることが知られ, 今日まで精製の報告はなかった. 私達は, 簡便な活性測定法の開発に成功し, ハイドロオキシアパタイトおよびQ-セファロースによる迅速な粗精製, CDH-酸アフィニティカラムクロマトグラフィーによってB16よりガングリオシドGM_3合成のシアリルトランスフェラーゼの精製に成功した. この酵素はSDS-PAGEにより分子量46000程度と推定され, CDHを最も良い基質とすることなどが明らかになった. ガングリオシドの発現制御機構を分子, 遺伝子レベルで解明するためには精製されたシアリルトランスフェラーゼが不可欠であり, その精製が待望されていた. 本研究でシアリルトランスフェラーゼの精製に成功したことにより, この分野での新しい展開が期待される.
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