研究概要 |
核MAP-1抗原は、微小管結合蛋白MAP-1に対するモノクローナル抗体で分裂能を有する細胞を間接蛍光抗体染色した際、核中に斑点状に検出される抗原である。この抗原はヒト正常細胞が老化した場合に消失し、癌化した場合には常時発現している。本研究は、このような発現の消長が、他の哺乳動物由来細胞でも一般的にみられるか否かについて検討したものである。マウス,シリアンハムスター,スンクスの胎児由来線維芽細胞について、初代培養から継代し、分裂寿命終了時まで、更には自然形質転換時を通して、核MAP-1抗原の発現頻度を調べた。細胞は高浸透圧培地で処理し、潜在的に分裂能を秘めている細胞でも核MAP-1抗原を発現させるようにした。確実に培養内自然転換を起すマウス細胞では、初代培養開始直後の核MAP-1抗原の発現率は35%程度であるが、継代を重ねると低下し、継代6代目には10%以下の最低値を示した。以後ゆっくりした上昇に転じ、継代11代目からは急速に増加した。細胞の累積成長曲線より推定される自然形質転換の時期(継代9〜10)よりも3代早くこの再上昇が観察されることから、細胞集団内に実際に形質転換細胞が出現する時期は継代6代目頃と推定できる。シリアンハムスター細胞の場合は、核MAP-1抗原の発現率が全体に低いが、マウスと同様の消長パターンを示した。この細胞では累積成長曲線がほぼ直線状となり、自然形質転換時期が推定しがたいが、核MAP-1抗原発現率の最低到達期より、継代16代目前後と判定できた。食虫類であるスンクスの細胞は、ヒト細胞と同じく自然形質転換を起さなかった。この場合は、継代10代目で核MAP-1抗原の発原は消失した。細胞もここまでに老化しており、増殖能を失った。以上の結果から、核MAP-1抗原の発現率は細胞の増殖能力に比例して変動し、形質転換以前ならば細胞老化の程度を示し、細胞の分裂寿命と同様に、動物の個体寿命と相関すると考えられる。
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