研究概要 |
失語症は発注後1〜2年でのみ著しい回復がみられるが, その後は, 回復が乏しいというのが定説である. しかし, 発症後2年以上の追跡を行った研究は少ない. この定説に反して, 失語症の回復が著しい例があっても, 従来はCTスキャンによって脳損傷の部位や広がりを知ることができなかったので, たまたま損傷部位が言語領を少ししか損傷していないとか, 損傷自体が小さいために回復が良かったのではないかという判断を受けた. 我々は(1)発症後3年以上経過しており, (2)CTスキャンで損傷部位が固定されている症例で, (3)発症後1〜3カ月で失語症検査のしてある症例を対象として, 失語症が発症後3〜10年経過するとどの程度回復するかを検討したI.発症後の10年以上経過しており, 発症時に全失語であった40名の追跡調査を行なった. このうち21名が死亡, 6名が再発していた. 残りの13名のうち9名を検査できた. このうち3名は著しく回復しており, そのうちの1例は全失語から純粋語唖に近い症状に回復していた. 残り2例は全般的に回復がみられた. 回復要因としては1)発症年令が60才以前であること, 2)患者の学習努力, 3)左中大脳動脈潅流領域の広〓な損傷であっても損傷が深いなどの要因が示唆された. II.発症後3年以上経過しており, 発症当時ブローカ失語6例, ウエルニッケ失語3例, 純粋語唖2例, 純粋失語1例を追跡調査した. これらの症例のうち50才以前に発症したブローカ失語の2例で回復は著しく, 日常会話ではほとんど言語障害に気付かれない程度に回復していた. これらの症例は損傷が小さいわけではなかった. 本研究の結果から失語症は発症後3年以降でも, (1)年令が50才以下で発症した場合(2)左中大脳動脈潅流領域の梗塞で損傷が深い場合(3)言語訓練を根気よく続けたなどの要因があればかなり回復する例があることが示された.
|