研究概要 |
各種遺伝性疾患の本態を究明するための試料供給源として, EBウィルスを媒介として樹立されたリンパ芽球細胞株LCLの需要が最近とみに高まっている. LCLの維持と管理に関する有効な指針を得ることを目的として, 継代培養されたLCLの細胞遺伝学的性状を検索して以下のような知見を得た. 1)過去2年間に新たに樹立できたLCLは次のとおり: 家族性大腸ポリポーシス(FPC)36家系由来の87株. 多内分泌腺腫瘍症第2型(NEN2)6家系由来の24株. 染色体の遺伝性脆弱部位(FS)保有者とその家族由来の19株. 各種の染色体異常症(欠失, 重複, 転座, 逆位など)とその家族に由来した14株. 2)MEN2家系及びFS保有者由来のLCLの継代培養中(2ヶ月〜1.5年)における染色体を分析した. 樹立後4ヶ月以降に様々な染色体異常が出現することが多く, 1年以上継代したLCLの幾つかでは付加的染色体異常が100%の細胞に認められ, その一部はクローン化していた. 数的異常が多く, とくにNos.5,8,12,15染色体トリソミーが目立った. 染色体異常の種類や出現時期, 頻度は, LCLの由来(年令, 性別, 遺伝的背景)とは無関係であった. 3)FS保有者由来のLCLではFS発現率が概して低かった. 但し, BrdU要求性のfra(I0)(q25)保有者由来の"B-3"株は, 樹立後1.5年間継代した細胞でも常時40〜60%のFS発現率を示した. "B-3"株を用いた様々な実験からfra(10)のDNA2本鎖間にはチミン含有率に大きな差があることが判った. 4)環状No.21及びNo.18染色体を伴う患者に由来したLCLでは, 3ヶ月の継代培養中でもリングは保持され, 小型染色体リングの安定性が確認された. 5)樹立できた幾つかのLCLは, 遺伝子の局在マッピング(D18S5の18q21.3→qter,D13S21とD13S22の13q14.1→q14.2)や, FPCとMEN2における連鎖検定や造腫瘍性突然変異(異型接合性の消失などを指標)の検索などに有効に利用された.
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